デジタルリスキリング入門0章~ミュージシャンからどん底サラリーマン編


デジタルリスキリング入門0章~ミュージシャンからどん底サラリーマン編

みなさん、こんにちは!
タカハシ(@ntakahashi0505)です。

来る2023/07/20に、拙著「デジタルリスキリング入門 ――時代を超えて学び続けるための戦略と実践」(通称「#デジタルリスキリング入門」)が発売となります。

今回、出版をお願いしております技術評論社さまのご厚意により、当ブログに「本書の第0章を全文掲載しても良い」と許諾をいただきました。

ということで、本シリーズでデジタルリスキリング入門の第0章「リスキリングの先にあるものとは」をお送りしております。

まずはその最初のパート「ミュージシャンからどん底サラリーマン編」です。

では、行ってみましょう!

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サックスの仕事を得るために

僕の父は団塊世代のど真ん中で、典型的な猛烈サラリーマンでした。その子どもたちにあたる、僕ら団塊ジュニア世代には、高校、大学と進学し、企業に就職し、サラリーマンとして定年まで働き上げる、そんな人生のレールが明確に用意されていました。子どものころに父が、僕に進んで欲しい進路を楽しそうに紙に書いて見せてくれたのを覚えています。

しかし、僕はその社会が用意したレールに乗って、いわゆる「ふつう」の、先が決まりきった人生を歩むことに強い抵抗を感じていました。だからこそ、いわゆる普通高校に通うことを避け、私服でオートバイ通学ができて5年間通う高専を進路として選択しましたし、大学院修士課程まで修了したにも関わらず、親の反対を押し切ってサックスプレイヤーの道を選ぶことにしたのです。時代としては、バブルがはじけた直後、就職氷河期のことでした。

音楽の道にチャレンジしはじめた僕ですが、サックスのプレイでいうと、まだまだ修行が必要でした。とくに高音域で音程が安定しないという悩みがありました。それを見抜いていたサックスの師匠から騙されたと思ってやってみなさいと教えてもらったのが、ロングトーンという、とてつもなく地味で、かつ、ひたすら疲れる練習方法でした。

メトロノームをテンポ60に合わせます。つまり1秒に1拍に合わせます。そして、サックスで出せるすべての音について12拍、まっすぐ音を出しっぱなし、そして4拍休みを繰り返し。これをサックスの一番下のBフラットから、その2オクターブ上のFシャープまで、行って戻るというものです。

ここまで30分以上かかるのですが、毎日、録音しながら、まずは3ヶ月こなすようにとのことでした。すると、3ヶ月を待たずして、1ヶ月あまりでみるみる効果が出始めました。悩みであった音程も圧倒的に安定したのですが、それ以上に音質、音自体の魅力が格段に上がりました。輪郭がハッキリして、伸びがよく、聴いている人の胸にストレートに飛んでいく、そんなイメージの音が出せるようになりました。この地味な練習は、結婚式やパレードでの演奏、個人レッスンなどという、実収入を得るための機会につながりました。

ミュージシャンと派遣社員の副業時代

しかし、サックスでお金を稼ぎ、生活を続けられる人は、それを望む人の中でごくわずかに限られます。収入のある仕事は、主に土日、祝日に集中します。平日の仕事になかなか恵まれず、生活するにはお金が不足していました。

そこで、平日の日中は派遣社員として働いていました。ミュージシャンがメイン、派遣社員がサブ、今でいう副業です。収入でいうと、メインとサブは逆転していましたが、収入源が2つありましたので、20代フリーターとしては悪くない収入を得ていたと思います。

さて、派遣社員の現場でよく使用するアプリケーションのひとつにExcelがありました。僕自身、ミュージシャンを自認していたので、Excelをマスターすることにはたいして興味はありませんでした。ただ、定時ちょうどに退社することには強いモチベーションがありました。なにせ、帰ってからロングトーンをはじめとする練習をしなければいけませんし、そうでない日はバンドのリハーサルがありました。そのような理由から、さっさと仕事を終わらせて、定時で帰るためのExcelのテクニックを身につけました。

今思うと、たいして高いExcelスキルを持っていたわけではありませんが、先輩社員のみなさんからは頼られるくらいの存在ではあったように思います。その仕事を本職としている正社員のみなさんよりも、ミュージシャンを目指している僕のほうが高いスキルを持っている。客観的に見ると、不思議な話ですが、現実にはよくある話なのだと思います。

そんなある日、チャンスが巡ってきます。デモCDを送った先の、あるレーベルからお声がかかったのです。意気揚々と話をうかがいに行ったのですが、先方の提案は、一言でいうならば「チャンスをあげるよ、報酬はないけど」というものでした。派遣社員を辞めたら生活が成り立たなくなってしまいます。その音楽業界のリアルに幻滅をしながら、タイムリミットの30歳を迎えることになりました。30歳までにものにならなかったら音楽は諦めると、父と約束していたのです。

安泰ではなかったサラリーマン時代

僕は、親世代の言うことは正しかった、サラリーマンになるのが幸せなのだということを悟りました。当時、派遣社員としてあるモバイルデバイス向けエンタメサービスを提供する会社で働いていたのですが、マネージャーに正社員になりたいと希望を伝えたところ、ありがたいことに採用いただきました。

このとき、第3世代移動通信システム「3G」に対応した端末が急激に普及しはじめていて、ケータイ向けコンテンツ市場は活況でした。僕は、i-modeをはじめキャリア公式サイトを企画する企画部門に所属していて、キャリア向けやパートナー向けのたくさんの企画書を作成しました。

その後、縁があって転職をしたのは同業界の従業員数30名ほどの小さな会社でした。市場の勢いもありましたが、それ以上に飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長し、数年で150人を超える規模になりました。私もその波に乗って、昇進・昇給を繰り返し、数十人のメンバーを抱える部門のマネジメント職に就任しました。この5年ほどは、順調なサラリーマンライフを満喫していました。

30代も半ばを過ぎた頃、事件が起きました。社運をかけて取り組んでいた新規事業が大きくつまづいてしまったのです。それによって、経営体制が変わり、再起をはかるために大規模なリストラが断行されました。僕が担当する部署のほとんどのメンバーが退職勧奨の対象になりました。僕自身は対象には入っていませんでしたが、降格を言い渡されていましたし、自分の居場所はないと感じていましたので、自己都合による転職を決意しました。

トップクラスのサービスを部門長として率いていたという自負がありましたし、企画、サービス運営、マネジメントなどの実績も十分あると感じていたので、転職はなんとかなるだろうと、高をくくっていました。しかし、それは甘い考えでした。反して転職活動は大苦戦をしました。

30社以上エントリーしましたが、ことごとく不採用となりました。理由は、年齢が高かったこと、希望年収が高かったこと、市場が求めるスキルや実績を持っていなかったことです。時代は、すでにソーシャルゲーム全盛期に突入しており、新市場では僕が培ってきた実績は、まったくもって響きませんでした。

そのような中、ある1社が「今すぐ入社を決断してほしい」と猛烈にラブコールをくださいました。しかし、そこはとんだブラック企業でした。

毎月売上10%増という無理な目標、365日24時間Skypeでつながり、頻繁に罵詈雑言が飛び交っています。月に2回の報告会はひとりずつ深夜まで説教、帰りのタクシー代は自腹です。同僚は病院の診断書を携えて次々と離職をしていきます。出社したら部署ごとなくなっていたこともありました。なんとか取り付けてきた契約を「破棄してこい」と指示されたときは気を失うかと思いました。

このままでは心身ともに崩壊してしまうという強い危機感を覚えました。疲弊しきっていましたが、「生きていければなんでもいい、とにかく逃げる」と決めたら、それなりに力は湧き出てくるものです。結果的に年収250万の大幅ダウンで転職が決まりました。当時、僕は38歳でした。

新しく入社した会社は、前職よりはだいぶソフトでしたが、ややブラックな企業でした。ここで定年まで働くイメージはまったく持てませんでしたし、アラフォーで、スキルなし、転職も難しいだろうとも思いました。「サラリーマンで安泰」と悟ったはずでしたが、それを信じることがむしろ大きなリスクなのだと身を持って知りました。他人に身を預けてしまうなら、のっぴきならない状況に追いやられ、こんな目に遭ってしまうこともある。他人に自分のキャリアを預けてはいけないと猛省をしました。しかし、これから数十年どうやって生きていくかを真剣に考える必要がありました。それと同時に、「『働く』とは何なのだろうか」と深く考えるようになりました。

(つづく)

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