デジタルリスキリング入門0章~コミュニティ設立からリスキリングへ編


デジタルリスキリング入門0章~コミュニティ設立からリスキリングへ編

みなさん、こんにちは!
タカハシ(@ntakahashi0505)です。

来る2023/07/20に、拙著「デジタルリスキリング入門 ――時代を超えて学び続けるための戦略と実践」(通称「#デジタルリスキリング入門」)が発売となります。

今回、出版をお願いしております技術評論社さまのご厚意により、当ブログに「本書の第0章を全文掲載しても良い」と許諾をいただきました。

ということで、本シリーズでデジタルリスキリング入門の第0章「リスキリングの先にあるものとは」をお送りしております。

前回はこちらの記事でした。

デジタルリスキリング入門0章~プログラミングとの出会いから独立編
「デジタルリスキリング入門 ――時代を超えて学び続けるための戦略と実践」(通称「#デジタルリスキリング入門」)が発売となります。本記事では、本書の第0章から「プログラミングとの出会いから独立編」を抜粋してお送りします。

今回はその続き「コミュニティ設立からリスキリングへ編」をお送りします。

では、行ってみましょう!

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コミュニティで学ぶというアイデア

この頃には、僕は「日本の『働く』の価値を上げる」を掲げて活動するようになっていました。独立後しばらくは受託開発も積極的に受注していたのですが、それよりも研修や講座、または執筆のような教える仕事のほうが、明らかにクライアントの「働く」の価値が上がると考えるようになりました。

というのも、開発物を使えばクライアントの業務は一時的に効率化するのですが、それは中身のよくわからない道具を手にしただけともいえます。いずれ、業務に変更があった場合は、その道具を改修する必要が出てくることになるのですが、その点でクライアントは無力です。実際、変更のご依頼について弊社へ見積依頼をいただいたとしても、僕のリソースが埋まっておらず身動きが取れなくなってしまうということがありました。そうなると、開発物は負債のように見えてきます。

それよりも、クライアントにプログラミングを教えてしまえば、道具を自ら作ることができるようになります。その身につけたスキルは資産になります。

しかし、人材育成にもデメリットがあります。お金を投資してから、その成果が出るまでの時間がかかるという問題がありました。一般的に、初心者がプログラミングを実務で使えるようになるまでに、200~300時間の学習が必要です。だいたい少なくても数ヶ月、平均して半年くらいは先行投資になり、それを超えてから少しずつ回収しはじめるといった具合です。

また、その期間、十分なスキルや経験を持つ他者からのサポートが得られないと挫折するリスクがあります。本職プログラマーであれば、社内の先輩に頼ることができますが、ノンプログラマーの場合、周囲にそのような先輩が見つからず、孤独な学習になることがほとんどです。とはいえ、外部のメンターや講師に、その期間中の密なサポートを依頼するなら、通常そこには莫大な費用が必要になります。

そこで僕は考えました。生徒どうしが学び合うという場をつくってみてはどうかというアイデアです。さまざまな研究で明らかになっている通り「教えることは二度学ぶこと」、つまり教えるほうも学びという報酬が得られます。その報酬をうまく機能させれば、金銭的な報酬が高くなくても持続的な教える場が成立するのではと考えたのです。こうして、2017年12月に学習コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(ノンプロ研)を開始しました。

コミュニティはノンプログラマーの学びの場として、とても効果的でした。教え合うことによる学びだけでなく、仲間ができることや貢献し合えることなど、コミュニティではさまざまな報酬が発生し、増幅することを知りました。

現在メンバー数は200名近くにのぼり、年間数百回を超える勉強会や発表イベントが開催されています。チャットツールSlackを用いた情報交換も活発で、7割以上のメンバーがアクティブに参加しています。コミュニティ内で開催されているプログラミング講座は、誰もが効果的に教える手法「インストラクショナルデザイン」をベースとしており、多くの受講生が挫折することなく完走しています。

社会を変える・組織を変える

このようにして、ブログや書籍を通して、またコミュニティを通して、ノンプログラマーの皆さんがプログラミングをはじめとしたスキルを、挫折することなく、効率よく、そして楽しく学ぶ機会と場所を提供するという点では、僕自身、一定の貢献はできるようになってきたと感じています。

ただ、「日本の『働く』の価値は上がっているのか」という問いに関しては、見渡す限り、全くといっていいほど進んでいないように見えました。というのも、ノンプログラマーが確実にスキルを身につけていたとしても、職場ではそのスキルが十分に発揮できていないことが散見されたからです。

たとえば、プログラミングで業務の自動化をしようにも、そもそもデータが紙にしか残っていなければ手に負えません。ITに苦手意識があるマネージャーや先輩がいた場合、ITを用いた業務改善全般に否定的な態度を示し、提案に聞く耳を持ってもらえません。スキルがあると知れ渡ると、周囲から次々と仕事を任せられるようになり残業がむしろ増えてしまうこともあります。そのような苦い経験から、周囲に自らのスキルを隠している人もいて、僕はそれを「隠れキリシタン」と呼んでます。

これでは、せっかくスキルを身につけても活用することができません。働くの価値を上げるためには、個人のスキルをアップデートするだけでなく、その受け皿となる組織の体制もアップデートをしなくてはいけなかったのです。

組織を変えていく、これは相当に困難な課題に感じます。たとえば、DXがバズワードになってしばらく経つものの、DXに全社的に取り組んでいる企業はわずか26.9%、100人以下の企業にいたっては、57.7%が「まったく取り組んでいない」と回答しています。多くの組織は変わっていませんし、変わろうともしていないように見えます。僕ひとりのリソースなんてごくわずか、正面から立ち向かったら焼け石に水です。しかし、何もしなければ、僕のミッションは達成することができなさそうです。

そこで、このような作戦を考えました。まず、DXを達成したいと願っている組織を支援して、圧倒的な成功を収めていただく。そして、それを成功事例として積極的に広報活動し、メディアでの露出を増やします。メディア経由で興味のある組織を引きつけて、そこをまた支援して成功を収めていただく。このようなサイクルを回して、うねりをつくり、世間の空気感に影響を与えていくというものです。

まず、手始めに「IT学習を継続するノンプログラマーが当たり前に活躍する社会を実装する」を実現することを掲げ、その母体となる組織として一般社団法人ノンプログラマー協会(ノンプロ協会)を2021年6月に設立しました。

それと同時に、書籍や資料を読み漁り、DXとはそもそも何か、成功している企業の共通点は何かを研究しました。また、組織で変革を起こす「冒険人材」を育てるために、「越境学習」というものが有効であることを知りました。職場をホーム、ノンプロ研をアウェイとすると、ノンプロ研の皆さんがこれまで葛藤を抱えながらしてきた活動が、実は越境学習そのものであり、冒険人材を育てることにもつながっていたのだということを知り、胸が熱くなりました。

さらに、ノンプログラマー協会の越境学習支援プロジェクトの事例や、ノンプロ研のみなさんをロールモデルとして発信すべく、広報についても学びました。蟻のような小さな組織でも、ニュースバリューさえ生み出すことで、十分に世の中に訴えられるチャンスを生み出せます。広報チームを組成して、他メディアに対するアプローチや自社メディアでの広報活動を開始しました。自らも2022年6月から音声プラットフォーム「Voicy」のパーソナリティになって、声での放送を毎日継続しています。

リスキリングの成功から再現性を抽出する

長々と僕自身の歴史についてお伝えしてきたわけですが、リスキリングという視点で振り返ってみましょう。

サックスプレイヤーになるために、地味なロングトーンをひたすらするようになったことも、ある意味リスキリングといえます。派遣社員時代に早く帰宅するために身につけたExcelスキルは、その後ずっと役に立つことになりました。

人生どん底から這い上がるきっかけとなったのは、プログラミング言語VBAとの出会いでした。ビジネスのヒントをもらい、かつビジネスを推進するためのスキルそのものでもありました。集客のためにはじめたブログは、書く力を磨く機会となりました。それは、書籍の上梓につながりますし、経営者として自ら文章を書けるのは大きな強みだと感じています。

プログラミング学習の挫折をなんとか減らしたいという想いから、ノンプロ研をつくりました。ノンプロ研は、言い換えるなら、リスキリングをする人たちのコミュニティともいえます。この時点から、人が集まるということ、実践コミュニティにも強い興味を持つようになりました。

その後、僕自身は、インストラクショナルデザイン、DX、越境学習、広報と、次々と学習対象を変化させてきました。現時点ではプログラミングの学習は重ねていないので、僕のプログラミングスキルは相対的に後退しています。今となっては、ノンプロ研のみなさんのほうが、高いスキルを持っていたりします。

さて、このように僕自身は20年間、リスキリングをしてきました。しかし、リスキリングしようと思ってしてきたわけではなく、そこに意味や必要性があるから学び、実践を繰り返してきたというだけの話です。ときに、スキルの獲得ができなかったとか、あまり効果的でなかったというものもありますが、その全ての経験が折り重なって僕個人というビジネスパーソンを形成しています。

また、僕の立場の特徴的なこととして、自分だけでなく他者のリスキリングを支援する活動もしてきたことが挙げられます。とくに、ノンプロ研のメンバーは同じコミュニティの仲間として、近い立場で活動しています。ですから、自分だけでなく他者でも効果のあった再現性のある要素を研究し、抽出するのに、僕はとても恵まれた立場にいるのです。実際に、それらの「研究成果」は、コミュニティやノンプログラマー協会の活動などにどんどん取り入れていっています。

何より強調したいことは、この20年を経て、僕は働くということや学ぶということに対して、ものすごく心理的成功を得ているということです。新しいことを学び、そのスキルを活用し、課題をクリアして、次に進んでいく、このような活動をできていること自体に幸せを感じます。また、ノンプロ研のメンバーもそれぞれの悩みや課題は抱えていながらも、いきいきと学び合い、教え合い、お互いの成功を応援したり、称え合ったりしています。

うまくリスキリング活動をすることは、経済的な安定をもたらすだけでなく、このような心理的成功につながるものであるということを、今まさに体感し、目にしているということです。

僕には、リスキリングをどのようにすればいいかという知見がたまっていて、それは再現性があり、言語化することができます。そして今、本書の執筆を通して、この幸せの輪をコミュニティ外の日本全体に広げるチャンスを得ることができました。このチャンスにも、ものすごく幸せを感じています。

(1章へつづく)

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